暗号の万葉集(証拠物書)

『万葉集』とは何でしょう。(李寧煕)

『万葉集』とは何でしょう。
その問いかけに対する私自身の結論をここに述べます。
『万葉集』は単なる歌集ではありません。
『万葉集』は主に7世紀後半に書かれ、あるいは発言された政治コメントを集めた大巻です。

『万葉集』編集の中心人物であったと伝えられる大伴家持は、なぜ歌を集めに集め、そして残したでしょう。それは「執念」以外の何者でもありません。藤原勢に押され一地方官まで零落します。
天皇は百済系から高句麗系、伽耶系、新羅系、そしてまた百済系へと目まぐるしく変り、権力の無情な推移も展開される中で、一貫して貞節を守り、国作りに従事してきたのは我が大伴家である。そのことを家持は言葉で語ろうとせず、膨大な政治コメント集をありのままの姿で残すことによって世に伝えようとしたのではないかと思われます。
同時に、『日本書紀』の大いなる歪曲記述を指摘批判する反証として、この史書に登場する人物たちの生の声を集めに集めたのではないかとも思われます。

古代韓国語(高句麗・百済・新羅など地方別の方言を抱括する古語)で正しく訓み直すことによって、『万葉集』は『書紀』を補い、真の正史を伝える貴重な史料として『万葉集』は甦ったのです。

解読例

原文

巻十六―三八八七 作者不詳
天尓有哉 神楽良能小野尓 茅草苅 草苅婆可示 鵬鶉平毛

従来の大意

天にある 神楽良の小野で 茅部を刈り 草を刈る場で、鶉鴉を飛び立たせることだ。
『全集』

解読結果

お上よ、知って置けよ。
新羅たちは
攻めて来るよ。
伽耶のあの鉄の名刀
刀、刀を
ぶち込んで来るよ。
山城なんか
立てたって むだだよ。

新羅たちが倭に攻めてくる事態で、「おそろしい軍事力で攻めて来るんだから、城壁なんか作ったって無駄だよ!」

当時の度重なる城壁づくりに疲労困憊した庶民の怨声を、反体制側の或るエリートが代わりに詠み、中大兄を批判した歌であろう。

ことば遣いの荒々しい会話体の歌。「天」とか「神楽」とか「茅草」とか「鶉」とかが使われている文字だけを追って行けば、天上で行われた何事かを詠んだ厳かな歌のような感じを受けますが、用いられている文字の印象とは裏腹に、突拍子もない内容が飛び出す『万葉集』。
これは、『万葉集』の暗号的性格の一面を意味するものです。激動、葛藤、政変、殺人の時代の産物として、『万葉集』は暗号文であることを余儀なくされたのでしょう。